「旅する考古学−遺跡で考えた地域文化」発刊のお知らせ

 最近、本屋さんの書棚を何気なく眺めていたら表題のような本に目がいきました。筆者は門田誠一さんで、仏教大学史学科の助教授です。中身をパラパラめくっていくと、なんと、青森市小牧野遺跡のことも書いてあるではありませんか。その内容の一部を紹介すると、以下のようですが、案内人と似たような考えを持っている人が広い世の中には本当にいるんだなあ、というのが正直な感想でした。


「旅する考古学」表紙目  次

I遺跡から見つめる営みと現在
1学生服の考古学者たち−一枚の写真から
2遺跡を守った北の男たち
3戦後の力・高校生の発掘調査
4沖縄のガマと遺跡−糸数壕、伊敷轟壕と周辺の遺跡
5三太郎峠を越えたドイツ人
6犬から鯨への伝言
7母と子の歴史学

II風土に生きる
1潟湖と水路に暮らした人々−オサンニ遺跡、青谷上寺地遺跡ほか
2土に生きる島と海に生きる島
3サンゴ礁の家と土葺きの家−仲原遺跡、御所野遺跡など
4日本海に向いあう人々
5小さな島の中の東アジア史−韓国・莞島清海鎮
6崖を登る馬−与那国島の小型馬
7地形の中の歴史を歩く

III祈り、祀り、悼む心と今
1ストーンサークルと手づくりの資料室−小牧野遺跡、伊勢堂岱遺跡
2クマヘの信仰と共存
3離島の積石塚−ジーコンボ古墳群、相島積石塚群、指江古墳群、曲崎古墳群
4亡命者たちの奥つ城−北朝鮮安岳三号墳、徳興里古墳
5墨書土器と民の信仰
6琉球王の墓と石碑−浦添ようどれ、玉陵
7岩刻画の前の少女−韓国・盤亀台遺跡にて

IV物を動かす人々・移動する人々
1最北の島と南の貝
2草原の遺跡で考える−応昌路遺跡、カラ・コルム遺跡、興隆窪遺跡
3遊牧民の造った白い城−中国・陳西省統万城踏査記
4海を越えた馬車の部品
5南の島の中国銭-仲問第一貝塚、崎枝赤崎遺跡
6野田泉光院と「おろしや盆踊り唄」

あとがきにかえて


●小牧野遺跡関連部分


 「(前略)
 私がこの遺跡を訪れたのは発掘調査が済んで、かなりの日数がたってからであった。青森駅から、本数の少ないバスに揺られ、一時間弱で着いたバス停の傍らには清冽な水が流れていた。そこから丘陵の方へ歩いて行く。遺跡への道はハイキングコースとかいうよりは、林道にちかく、鳥の鳴き交う中を歩きながら、人里からはるかに離れたところをもう何時間も来たような錯覚にとらわれた。
 やがて道沿いに畑が見え、その傍らに小さなプレハブの建物があった。あたりに人影は見えず、建物の中も無人であった。「ご白由にお入りください」という表示にしたがって、入ってみると、中には小牧野遺跡についてのパンフレットや周辺にある遺跡の案内書が置いてあり、白由に持ち帰ってよい旨が記されていた。ここまでは、しばしば行われていることだが、驚いたのは壁ぞいに置かれた机の上や引出しの中に、雨傘、傷薬などが用意されていたことであった。周辺に自然がよく残る遺跡に対して、慣れない見学者がすり傷などを負った場合や急な雨に降られた時に対する配慮であった。それだけにとどまらず、机の引出しの中には封をきっていないフィルムがあった。見学者がフィルムを忘れてきたり、切らしたりした場合に使えるようにとの心遣いであった。
 小牧野遺跡のように全国的に知られた遺跡は遠くからの見学者も多い。その建物は小さいけれども、せっかく訪れてくれた人たちに対して、さまざまな場面を想定した細やかな配慮に満ち溢れていた。
 これらの品々は遺跡を見学したり、さらに踏査する際には必需品であり、それを用意した人は他人の不便に対して現実感をもって想定できたのであろう。活きた配慮に満ち溢れた、この小さな建物は、その点では、どんな立派な博物館にもひけをとらないと感じた。
 (中略)
 あちこちに新しく立派な博物館や資料館が建設され、中には採算性を全く考えず、膨大な赤字を計上しつづけている公立の博物館があり、白治体財政の大きな問題になっていることも、たびたび報じられている。また、施設は立派でも、全く手をかけないために内容や活動が朽ち果てていく場合もある。都市部に新築された博物館の中には、映像施設だけで何億という経費を使い、建物全体では数十億のお金を注ぎ込んだ施設も多い。そして、そんな施設の立派さや設備の新しさを自慢げに語る関係者も多い。けれども、そのような施設の美しい展望室から見えるものは、ホームレスの人々が作った青いビニールシー.トの群れであった。そんな時、ごく健全な感情を備えていれば、豪奢な建物とその日その日を暮らしていく人たちとの間のギャップに当惑し、なかにはそのような公的資金の使途に憤りを感じる人もあろう。
 新しく豪華さを誇る建物を見たときほど、ことさらに一つ一つ縄文人たちの掌で運ばれた小牧野遺跡の有り様と、その前で気持ちよく私を迎えいれてくれた小さなプレハブ建物に注ぎ込まれたやさしさと心配りを思い出す。」


 ちなみに、出版元は昭和堂という京都市の出版社で、定価は1700円(税抜き)です。みんなで本書を購入し、このような良心的な出版社を応援してあげようではありませんか。


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