浪岡町野尻(3)遺跡出土の刀装具について

 はじめに 
 平成15年度に青森県埋蔵文化財調査センターが行った、国道7号浪岡バイパス建設事業に伴う高屋敷館遺跡、野尻(3)遺跡の発掘調査では、住居跡をはじめとする平安時代の多くの遺構を検出し、多数の遺物が出土した。このなかでも、野尻(3)遺跡から出土した金属製の刀装具(とうそうぐ)1点は、私の知っている範囲では県内や周辺地域においても類例がなく、今後の発掘調査成果をまとめるに当たって、類例資料などの情報提供やご助言をいただきたく、今回、ここに紹介するものである。


 遺跡の位置と調査の概要
遺跡位置図 刀装具が出土した野尻(3)遺跡は、浪岡町大字高屋敷字野尻に所在し、梵珠山を源とし南流する大釈迦川右岸の段丘上に立地する。この右岸段丘上を中心として、周辺地域では、国史跡高屋敷館遺跡をはじめ、山元(2)・(3)遺跡、野尻(2)・(4)遺跡などの古代の遺跡が数多く発掘調査されている。特に平安時代の遺構の検出が顕著で、当遺跡でも今年度の発掘調査で竪穴住居跡29軒、円形周溝11基、壕跡2条などが検出された。また、隣接する高屋敷館遺跡や山元(1)遺跡の発掘調査も今年度行われ、多数の遺構や遺物が確認され、古代の津軽地方を読み解く上で貴重な資料を提供している。


 

3 出土した刀装具について 
刀装具出土状況 刀装具の出土状況は、第3号円形周溝の覆土上面の遺構確認面から、単独で出土した。付近からは、これに関連するような遺物の出土はなかった。周囲における古代以外の遺構の重複、撹乱等がみられない点から、第3号円形周溝に伴うものと考えられる。
 大きさは、縦4.3cm、横4.2cm、側面幅1.6cm、厚さは、最も厚い上部先端の部分で0.5cm、ほかは0.2cmである。重さは、約40gである。素材は、金属製であるが、今後、分析を行いたい。全体が緑青(ろくしょう)と思われる錆で覆われており、色調は、緑灰または暗緑灰色を呈する。製作方法については、遺物の観察から型を用いた鋳造の可能性が高いが、この点についても検討を行いたい。
 形態は、長さと幅が、ほぼ同じであり、隅丸の正方形に近い形である。上部に向かうにしたがってやや細くなる形で、中央先端部がやや突出する。両面ともに蝶が羽を広げたような形をした透かしと円形の手貫緒(てぬきのお)用と思われる穴が開いている。また、側面の幅が異なっており、一方が厚く作られている。おそらく、これが刀の刃と背の向きに対応するものと考えられる。上部の両隅には、細い刻みが両面にかけて施されている。

刀装具写真1

刀装具写真2

刀装具写真1

刀装具写真2

刀装具実測図
刀装具実測図


4 若干の考察
 形態的な特徴を踏まえたうえで、現時点で若干の考察を行いたい。まず、刀における当出土資料の部位であるが、各地に少数伝世している古代の太刀などを参考とすると、手貫緒用等の穴を有するほうが、刀の柄の先端である事例が多く、当出土資料も柄の先端の金具である兜金(かぶとがね)の可能性が考えられる。また、製作年代であるが、発掘調査の結果では、平安時代の遺構に伴う出土であり、現時点においては、該期の年代が与えられる。また、出土資料の性格であるが、出土した遺構が平安時代の墓と考えられる円形周溝であり、被葬者の副葬品とみることもできる。しかしながら、現時点では、不明な点が多い。出土資料の年代や性格付けは、今後の検討を要する。


5 まとめ
 今回、出土資料の紹介と若干の考察を行ったが、その目的は、客観的な資料の提示を行い、それに対する類例に関するご教示やその他のご助言を請うことにある。考察は、現時点での見解を示しただけであり、今後、周辺地域を含めもっと範囲を広げて類例や、関連資料を集めて検討を行う必要がある。その上で改めて、出土資料の製作年代や性格付けを行いたい。(青森県埋蔵文化財調査センター 山田雄正)


 類例をご存じの方や県連資料等をご教示いただける方は、青森県埋蔵文化財調査センター資料課(myzo05@education.pref.aomori.jp)までメールをいただけると幸いです。
 今回の資料紹介は、青森県埋蔵文化財調査センターから資料提供を受けました。記して感謝申し上げます。


 皆様に類例ご教示をお願いしましたところ、早速に何人かの方からメールで下記のような貴重な情報をお寄せいただきました。この場をお借りして、厚く御礼申し上げます。(平成16年1月20日追記)

●秋田県鹿角市 高瀬館跡SK02 『西山地区農免農道整備事業に係る埋蔵文化財発掘調査報告書2─高瀬館跡─』秋田県報第153集 1987
●秋田県仙北町 払田柵跡SX909焼土遺構 『払田柵跡─第84〜87次調査概要─』秋田県報第216集 1991
●茨城県茨城町 奥谷遺跡41号住居跡 『奥谷遺跡・小鶴遺跡』茨城県教育財団報第50集 1989
●栃木県日光市 男体山山頂 『日光男体山─山頂遺跡発掘調査報告書─』 角川書店 1963
●愛媛県大山祇神社
 ・牡丹唐草文兵庫鎖太刀 国宝 14世紀(護良親王奉納所伝)
 ・拵残欠 13世紀  
●奈良県春日大社
 ・沃懸地酢漿平文兵庫鎖太刀 鎌倉時代 国宝
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●和歌山県丹生都比売神社 
 ・葦手絵兵庫鎖太刀 13世紀 国宝
●東京国立博物館
 ・三鱗文兵庫鎖太刀(三島大社旧蔵) 13世紀 重文
 ・沃懸地群鳥文兵庫鎖太刀 13世紀 国宝



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