遺跡位置-50m等高線
遺跡対岸からの遠景

はじめに

 たくさんの石を円形に配置して、墓や儀礼用の施設としたものを環状列石といいます。環状列石は縄文時代前期末(約5,000年前)から作られ、北海道から近畿地方まで広い分布を見せますが、特に縄文時代中期後半〜後期前半(約4,500〜4,000年前)に、北海道と東北地方北部に多く作られました。

 伊勢堂岱遺跡は、縄文時代後期前半(約4,000年前)の環状列石を主体とする遺跡です。平成6年、大館能代空港のアクセス道路建設に先立ち、秋田県埋蔵文化財センターにより初めて調査が行なわれました。以来、毎年調査が継続されており、今年で7年目になります。鷹巣町教育委員会では、今年度も昨年度に引き続き、国史跡指定申請のための範囲確認調査と内容確認調査を実施しました。

1.範囲確認調査の概要

 今年度の範囲確認調査は、分布の稀薄な台地西縁、調査面積の少ない台地中央部を対象にしました。台地西縁に7本、台地中央部に4本、計11本のトレンチを設定しています。遺構は検出されませんでしたが、出土遺物は土器や石器のほか、キノコ形土製品やミニチュア土器、小形の三脚石器など、多彩です。いずれも縄文時代後期前半の所産と考えられます。

2.内容確認調査の概要

 今年度の内容確認調査は、環状列石周辺にどんな遺構があるのかを確認するために実施しました。

 1)環状列石Aの北側

 環状列石A北側の全域を対象に、10cmコンタ図の作成とボーリング探査を実施しました。その後、微細な高低差が見られる箇所を中心に、長さ40mのトレンチを設定しました。掘り下げを進めたところ、漸移層〜vI層上部で、いくつかプランを確認することができました。その後、北壁に幅50cmのサブトレンチを設定し、SX01、04の掘り下げを実施しています。規模や全体形状などの詳細はわかっていませんが、遺構の時期は出土遺物から、どちらも縄文時代後期初頭のものと思われます。

<SX01>

 平成7〜8年度に実施された、秋田県埋蔵文化財センターによる発掘調査では、環状列石Aの内側から、重複する土坑がいくつも見つかっています。同じ場所に何度も穴を掘ったため、プランは大きく不整形になるのが特徴です。これらは環状列石が作られる以前の墓穴と報告されています。SX01の規模や全体形状は不明ですが、断面と底面では同じ場所に何度も穴を掘った様子が観察されます。上記と同様、墓穴の可能性があります。





<SX04>

 口が狭く、底面が広い土坑を「フラスコ状土坑」と呼びます。SX04は断面の様子から、フラスコ状土坑と思われます。底面には、こぶし大の石が5つ置かれていました。フラスコ状土坑は食料を貯蔵するための穴ですが、縄文時代にはそれを転用して墓穴にする例が少なからずあり、底面に石が置かれる例がしばしば見られます。SX04に置かれた5つの石は、副葬品として埋納された可能性があります。






2)環状列石Cの南側

 環状列石Cの南側では、ボーリング探査を実施しました。広い範囲に探査を実施したことで、多くの成果を得ることができました。








<環状列石C南半分>

 環状列石Cは昨年度までの調査で、北半分が明らかになっています。今年度は未調査の南半分について、詳細なボーリング探査を実施しました。その結果、環状列石Cの形状を明確に把握することができました。南半分も北半分と同じように、3重の円環により構成されているようです。なお、環状列石Cの南西部にも礫反応が集中しており、小規模な配石遺構の存在が予想されます。

<環状列石D>

 ボーリング探査をさらに林の奥まで進めたところ、環状列石Cの南東約10mの地点で、環状列石Dを確認しました。長径36m、短径32mの楕円形を呈するものと推定されます。一部試掘を行なった結果、中心には直径1.5mほどの石の環が検出されました。ここから環状列石Dは、最少で2重の円環により構成されることがわかりました。

 

列石D(2)中央帯

列石D(3)外帯

列石D(3)外帯

列石Dボーリング結果

列石D(1)外帯

列石D(1)トレンチ全体

列石D外帯に続くボーリング杭

まとめ

 伊勢堂岱遺跡の範囲は広く、台地全体に及ぶことがわかっています。今年度の範囲確認調査では、遺跡内の分布の濃淡を明確に把握することができました。また、内容確認調査では、環状列石Cの南側に、新たに4つ目の環状列石を見つけることができました。今年は一部を試掘したのみですが、今後の調査で徐々に、石の並びや整地の痕跡、付随する遺構の有無などが明らかになることでしょう。

 伊勢堂岱遺跡の調査は、来年度も継続されます。今後とも皆様のご協力、ご支援をよろしくお願い申し上げます


 掲載に当たりまして、鷹巣町教育委員会より全面的な資料提供を受けました。この場をお借りして厚くお礼申し上げます。(2000年11月26日/2001年8月再掲)


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