12月1・2日の2日間にわたって、2001年の青森県埋蔵文化財発掘調査報告会が青森市荒川にある県総合社会教育センターで開かれました。悪天候にもかかわらず、県内外から2日間で300人ほどの参加者がありました。他県での同様の催し物とかち合ったために、例年に比べると参加者が少なかったのが残念でした。
 今回の報告会で注目されたのは、青森市岩渡小谷(4)遺跡です。発見された遺構、遺物に下記のように目を見張るものがありました。約5000年前の高台がついた木器や石斧の柄の未製品、あるいはある新聞社が「顔をデザインしたひしゃくの柄」と報じた木製品(木製品-5  向かって右側の表面の色が違っていて、後生の剥落などの可能性があることが見て取れる。このことについては、「けいじばん」でも触れています。)などが特に注目されます。

展示室風景

岩渡小谷(4)遺跡木製品-1

岩渡小谷(4)遺跡木製品-2

岩渡小谷(4)遺跡木製品-3

岩渡小谷(4)遺跡木製品-4

岩渡小谷(4)遺跡木製品-5


岩渡小谷(4)遺跡調査概要

 岩渡小谷(4)遺跡は青森市の市街地から西方に約5Kmの位置にあり、八甲田連峰から連なる丘陵縁辺に立地し、西側には丘陵を開析する沖館川が流れています。

 発掘調査は平成12・13年度の2カ年にわたり、昨年度までの調査の結果、縄文時代前期中葉から後葉(約5000年前)を中心に営まれた集落跡であることがわかっています。今年度の発掘調査の結果、たてあな竪穴住居跡9軒(累計で29軒)、どこう土坑8基(累計で24基)、埋設土器76基(累計で84基)、焼土3基(累計で15基)、捨て場2カ所の遺構のほか、調査区を東西に走る沢からきぐみ木組いこう遺構2基が検出されています。遺物は、縄文土器と石器等がダンボール箱で約120箱、沢の中からは木材と木製品が約1000点、この他、種子と昆虫化石等が出土しています。

 今年度の発掘調査の大きな成果として、2点があげられます。

 一つめは調査区の南側丘陵の頂部から北向きの斜面にかけて、縄文時代前期後葉(約5000年前)円筒下層d1式の埋設土器が76基検出されたことです。土器の埋設状態は、単独で正立しているものが半数以上を占めていますが、単独で倒立しているものと、正立した土器に別の土器で蓋をしているものも約4分の1ずつ検出されています。埋設された土器は小型のもので、ほぼ完形の個体から、胴部下半〜底部までのものまで様々です。また、少数例ではありますが、これらの土器内から北海道式石冠・石さじなどが出土しているものもあります。

 二つめは、沢の中から縄文時代前期中葉から後葉(約5000年前)と考えられる木組遺構が2基検出されたことです。この沢は、昨年度西側半分を、今年度は東側半分と北から注ぐ支流の調査をしました。今年度調査した沢は、長さ約20m、幅約10m、地表面からの深さ約2〜3mで、第1号木組遺構は下流に、第2号木組遺構は上流側の調査区境界付近に位置しています。また、沢には縄文時代の遺物包含層が約1〜2mの厚さで堆積しています。この堆積層には、加工木材片・自然木などが大量に含まれており、この直下から木組遺構が検出されています。

 第1号木組遺構は3つの構造からなると考えられ、(1)2m前後の木材を沢際に平行に配置した部分、(2)杭と板材を沢底に直交して打ち込んだ部分、(3)杭と板材を沢底に平行に打ち込んだ部分に分けられます。これら3つの構造を合わせると、(2)で水の流れを止め(せき堰部分)(1)で囲いをつくり、水を溜め、(貯水部分)(3)で不要となった水を流すこと(出水部分)が考えられ、第1号木組遺構は貯水施設として機能した可能性があります。木組に使用された木材は、水溜めの囲いにY字型加工材、杭の代わりに櫂状木製品が用いられている箇所もあり、本来の使われていた機能とは別に再利用されているものも見られます。このほか、石斧柄未製品(上の写真)や掘り棒等がこの木組遺構近辺から出土しています。第2号木組遺構は全体の構造が不明ですが、長さ1〜1.5m前後、幅30〜40cm前後の加工材を沢に直交させ、沢際に沿って約5cm大の杭が50〜1mの間隔で打ち込まれています。この木組遺構については、機能を想定するところまで至っていないですが、クリの殻片が集中して検出されたこと、舟形容器2点や漆器類数点などの容器類の大半がこの近辺から出土していることなどが留意する点と考えます。

 近年、全国的に低湿地の調査が行われるようになり、縄文時代の「水場遺構」と報告される例も増加していますが、これらの多くは後〜晩期(約4000〜2000年前)にみられるものです。本遺跡の例は縄文時代前期(約5000年前)という比較的古い時期に、丘陵や台地上の小沢でも水を利用した施設が作られているということを示す貴重な発見例といえます。

 今後は、「斜面地の竪穴住居跡と埋設土器群」、「沢内の木組遺構と昨年検出した捨て場」等を合わせた集落の全体を把握していきたいと思います。(当日配付資料より)


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